2月末、クラビのバスターミナルからバンコクまで深夜の長距離バスで向かった。到着はモーチットバスターミナル早朝4時。バイタクで宿まで100バーツだが、急いでも何もできない時間帯だ。時間つぶしも兼ねてBTS最寄りまで約20分暗がりの中歩いて向かうことにした。
日の出前のバンコクに夜明けを知らせる鳥のさえずりが響く。なんとも言えない趣を感じながら、ゆっくりと歩を進めると突如女性の声で呼び止められた気がした。辺りを見回しても人影はない。未明の幹線道路沿いだから当然歩行者など自分だけだ。
ふと目の前の歩道橋を見上げると制服姿の女子学生が取り乱し、叫びながら手すりを乗り越えて転落しそうになっている。一瞬何が起こってるのか自分の中の時が止まる。頭を過ぎったのは「え?麻薬中毒者がキマってる?」しかし、どう見ても10代半ばの目鼻立ちの整った少女そして制服姿。
こんな時間にこんな場所。おおよそ似つかわしくないシチュエーション。
「大丈夫?」と英語で声をかけるが取り付く島もない。言葉の問題というより半狂乱のような号泣してるような、とにかくただ事ではない様子。とっさに通りすがりのバイタクのお兄さんを停めて助けを求める。その間に女性は手すりから転落したが、階段の手すりの外側の軒のような出っ張りに引っ掛かって滑り台を滑り落ちるように道路へ倒れ込んだ。
早朝で交通量は少ないとはいえ、ゆえにスピードを出した車両が脇を次々にすり抜けていく。咄嗟にアイコンタクトを交わしバイタクのお兄さんと女子高生を担ぎ上げて、というより引きずって安全な歩道へ寝かせる。大きな怪我は無いようだが、ひたすら号泣して嗚咽で会話ができる状態じゃない。それから徐々に通行人や清掃員の人が数人集まってくれた。とにかく一安心だ。
ここからは自分が出来ることはないので、地元の人達にお任せして後ろ髪を引かれながらも駅に向かった。この間約10分ほど。
突然の出来事でドキドキが収まらない中、「どの国も行き詰まった若者はいるもんだな」と少し落ち着いてから思い返してみると、身を投げるにしても不可解な事に気が付く。
歩道橋から身を投げると思いきや階段沿いの手すりに捕まりながら滑り落ちてきたことや、道路に倒れ込んだときも車が避けやすい歩道側に意図的に寄っていたこと。そして、その時は正気を失ったように見えたが取り乱しながらもはだけたスカートを直しながら叫んでいたこと。
そもそも飛び降りる前に大声で、まるで「私これから飛びますよ」と周りに知らせるように叫んでいたこと。
当然真意は分からないが、「構ってアピール」にも見えなくはない。兎にも角にも、大事に至らなくて良かったが早朝の暗がりでビックリの経験をした。
無責任に放ったらかして来た立場であれだけど、まだ人生始まったばかりの可愛らしい少女のその後を案じずにはいられない。多分忘れることのない経験だったと思う。
いや忘ないでおこう。乱れた制服のスカートの下にチラリと見えた内太もものタトゥーと共に。